2011年4月30日土曜日

20110430 JBJS Can Vitamin C Prevent Complex Regional Pain Syndrome in Patients with Wrist Fractures? A Randomized​, Controlled​, Multicente​r Dose-Res

抄録
CRPS タイプ1は症状に応じて様々な治療がなされている。筆者らは以前にビタミンCの内服によってCRPSの予防ができそうである。ということを報告している。(Lancet 1999)。今回は容量依存性にその効果が出るかどうかをRCTで評価した。
方法
doubule-blind、 prospective、 multicenterという研究デザイン。416例、427骨折がプラセボとビタミンC(200㎎、500㎎、1500mg)を50日間毎日連日投与された。CRPSと年齢、性別、骨折型、ギプスに伴うトラブルとを評価した。
結果
317患者、328骨折に対してビタミンCが投与された。99患者99骨折に対してプラセボが投与された。ビタミンC投与群ではCRPSの発症率が2.4%、プラセボ投与群では10.1%で有意な差が認められた。すべて高齢女性であった。容量については200㎎群で4.2%、500㎎群で1.8%、1500㎎群で1.7%であった。早期にギプスについての愁訴があることはCRPS発症の予測因子となりうることも分かった。
結論
ビタミンCの投与は手関節骨折のCRPSの発症を現象させることができる。容量としては500㎎/日を推奨する。

考察
救急外来でこの条件に合う患者さんにたいしてインフォームドコンセントをとることが大変だったと。
予想よりもCRPSの発症率が低かったが、これはビタミンCのサプリメントをとることがオランダでも習慣となりつつあることと関連しているのかもしれない。
ビタミンCはヒト血漿内で200㎎/dlの定常状態にすぐ落ち着く。50、60㎎の内服を行ったところでそれが関連しているかは不明である。
ビタミンCの内服は500㎎でNNT(Number needed to treat)が12と良好な成績であった。
ギプスに対する愁訴がある患者ではCRPSを発症しやすかった。早期にギプスの愁訴を訴える高齢女性では注意が必要である。
CRPS発症と診断するまでの期間は平均76日であった。ビタミンC内服群では平均68日、プラセボ内服群では平均83日であった。
ビタミンCが体内でどのように働いているかは不明である。ラットを用いた研究では骨折治癒に有効に働いたとする研究があるが、今回の報告では骨折の治癒までに差はなかった。
虚血ー再灌流障害にともなう好中球産生の活性酸素による血管内皮の損傷を防ぐ働きがあるとも言われており、コンパートメント症候群で同様に言われている

<論評>
AAOSの橈骨遠位端骨折ガイドラインで気になったので探して読んでみました。この論文の前にLancetで同じ内容が報告されていたのですね。知りませんでした。
研究デザインとしても妥当ですし、limitationについてもしっかり記載されていたので、明日から橈骨遠位端骨折の患者さんが来たらビタミンCを投与してみようと思いました。

保険収載されているビタミンC(アスコルビン酸)にも効能効果として”骨折時の骨基質形成・骨癒合促進”と書かれているではありませんか。

ほかの骨折でも出して調べてみる価値はありそうですね。まずは足関節骨折のような頻度の高い骨折で調べてみると面白いかもしれません。

2011年4月27日水曜日

20110427 JBJS American Academy of Orthopaedic Surgeons Clinical Practice Guideline on The Treatment of Distal Radius Fractures

AAOS(アメリカ整形外科学会)からの橈骨遠位端骨折に対するガイドラインとそのエビデンスレベル

・コンセンサスが得られているもの
15.保存的治療が行われた橈骨遠位端骨折は3週間でレントゲン撮影を行い、ギプスを除去する。
20.橈骨遠位端骨折の患者で絶え間ない疼痛を訴える場合には再評価を行う必要がある。
22.橈骨遠位端骨折と診断がついた後からは患肢の手指の自動運動を進める。

・中程度のエビデンスがあるもの
3.整復後、ギプス固定のうえレントゲン撮影をし、レントゲン写真上で3㎜以上の短縮、10度以上の背屈転位、関節内軟骨の2㎜以上のずれが認められる場合には手術治療を考慮する
7.転位のある橈骨遠位端骨折の保存治療では取り外しのできる装具よりもしっかりとしたギプス固定のほうが好ましい。
19.非観血的整復を行った患者ではDRUJのアライメントを手関節側面像で評価しておく必要がある。
23.観血的手術後に早期のROMを無理に進める必要はない。
26.CRPSのような予期せぬあり得ないような痛みが生じるのを予防するためにビタミンCによる補助療法が有効である。

・弱いエビデンスのあるもの
8.全く転位のない橈骨遠位端骨折であれば取り外しのできる装具で治療可能である。
10.関節内骨折を伴うような橈骨遠位端骨折では術中に手関節鏡による評価は有用。
11.手関節周囲の靭帯(TFCC、SILL)などの修復を術中に行うことが有用な場合がある。
12.手関節鏡は術中に靭帯損傷の評価を可能とし、術前のCTで関節内骨折の評価が可能となる。
21.自宅でリハビリプログラムを行うことは悪くない。

・結論の出ていないもの
1.整復後に神経障害を訴えるような例について神経の除圧術を行うべきかどうかは不明。
2.適切に整復された不安定型の撓骨遠位端骨折をそのままギプスだけで治療してよいかどうかは不明。
4.一つの手術方法のみが適切と言えるかどうかは不明。
5.55歳以上の患者さんにたいして手術療法を行ったほうがよいかどうかは不明
6.55歳以上の患者さんで掌側ロッキングプレートを用いたほうが良いかどうかは不明
9.肘上ギブスを巻くことが有用かどうかは不明
13.ロッキングプレートで固定した際に骨移植や人工骨移植を行ったほうがよいかは不明
16.経皮的鋼線刺入法が有用かどうかは不明
17.撓骨遠位端骨折が将来の骨ぜい弱性骨折の予測因子となりうるかどうかは不明
18.DRUJを骨接合の際に観血的に整復した方が良いかは不明である。
25.創外固定を用いた際には過矯正したほうが良いかどうかは不明
28.撓骨遠位端骨折にともなった尺骨茎状骨折を手術したほうが良いかは不明である。
29.月状骨面の陥没や、4part骨折を創外固定で治療した方がよいかどうかは不明である。


<論評>
AAOSからでた撓骨遠位端骨折の治療ガイドラインです。
番号順だと分かりにくかったのでエビデンスの強さに応じて並べ変えました。
普段の日常で当たり前だとおもって治療していたこともほとんどがinconclusiveになっていることにオドロキでした。
逆にいうと日常臨床での結果を論文にまとめることで少しづつエビデンスが強化されていくのではないかと考えましたので、社会に貢献できるように頑張りたいと思います。

26.ビタミンCがCRPSの予防に有効というのは初めてききましたので元論文を探してみたいと思います。

2011年4月11日月曜日

20110411  Cochrane reviews : spinal manipulative therapy for chronic low back pain

慢性腰痛に対する整体、カイロプラクティックについて

spinal manipulative therapy (SMT) は世界的にいろいろな方法で、様々な人によって行われている方法である。この方法が効果があるかどうかは議論の余地がある。

腰痛では一般的に疼痛により日常生活が傷害され、個々もしくは社会に経済的損失を与えうる。QOLの低下をもたらし、失業に至ったり、さらなる医療費の支払いあが必要となる。
この研究の目的は12週以上にわたる腰痛を慢性腰痛と定め、はっきりとした原因に基づいた腰痛は除外した。腰痛は狭義の背部痛だけでなく、臀部、下肢への放散痛があるものも含む。

SMTは脊椎を”手で押したりする”ことによって行われる治療として知られている。整体、カイロプラティックなようなものである。セラピストが患者の脊椎の可動域を広げるような運動を行う。セラピストがゆっくりと他動的に徐々に関節可動域をひろげていくイメージである。マニュピレーションはセラピストが可動域の最後に直接的にぐっ、と力を加えるような運動である。この際によく”ポキッ”とした音が聞こえる。

26のRCT、6070例についてこのreviewでは調査を行った。様々な整体師、カイロプラクティターによって治療が行われた。9つの研究だけが十分にバイアスが除去されていると判断された。

結果
運動療法、内服/外用、物理療法と同様に改善が得られる。という結果が得られた。しかしながらほとんどでどのようにプラセボと介入を区別したかについてははっきりと描いては居なかった。研究の2/3がバイアスがかかっているので、今回の結果を完全に受け入れられるものにはできなかった。あきらかな有害事象はSMTでは認められなかった。

まとめると、SMTはいまある治療法と比べて良くもなければ悪くもない。

<論評>
コクランに載っていたので読んでみました。

結果は妥当であると考えました。
よく、整体やカイロプラテックに対するその効用の有無が問われますが”わからない”が正しいのでしょう。

まあ、有害事象がないので、薦めても罪はないのかと。
ただ、エビデンスがない以上保険診療が用いられてはならない。と思います。
自費で患者さんが受けられるのであればいいのかなと思います。

余談になりますが、こういった研究は難しいのはたしかに事実かと。
マッサージでRCTをやるとすれば、
施術前に”今からマッサージをします。あなたが受けるマッサージは①上手な施術者か、②素人かのどちらかが行うものです。どちらがやるかは無作為に決まります”と言われてからうけるマッサージは①、②のどちらに行われても、少なくとも気持ちよくはないだろうと想像されます。苦笑
プラセボの効果と言うものは全くバカにできない。
患者さんが”これ、気持いいなあ”といっているものに大して、医療者側から”それはエビデンスがありませんよ”と言うものは野暮である、と考えます。

まあ、患者さんが”気持ちいい”といっているのなら”良かったねえ。よく効いて”といってあげるのがあるべき姿かと思います。

ただ、僕自身の意見として、このプラセボ効果を悪用し、”このレメディーがきく”、”このグ◯コサミンがよく効く”と言っている業者には強い怒りを感じていることはハッキリと言っておきます。


最後にサイモン・シンが書いた”代替医療のトリック”という本を紹介しておきます。
ありとあらゆる代替療法に対して一つづづエビデンスの有無を調べ、それを物語として提示しています。
EBMってなにかなあと疑問に思ったときには最も端的に答えてくれる一冊であることは保証しますが、かなり厚い本ですので注意が必要です。

またご希望があればこの本の内容について抜粋して提示しますので、コメント欄にご記入ください。

http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:5vT7ERcbzCQJ:www.amazon.co.jp/%E4%BB%A3%E6%9B%BF%E5%8C%BB%E7%99%82%E3%81%AE%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF-%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%A2%E3%83%B3-%E3%82%B7%E3%83%B3/dp/4105393057+%E4%BB%A3%E6%9B%BF%E5%8C%BB%E7%99%82%E3%81%AE%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF&cd=1&hl=ja&ct=clnk&gl=jp&source=www.google.co.jp

2011年4月8日金曜日

20100408 JBJS The Increased Financial Burden of Further Proposed Orthopaedic Resident Work-Hour Reductions

背景
週80時間以内に研修医の拘束時間を減らす、という試みが行われたが、それにともなう卒後研修に関わる費用は増加しなかった。多くの教育研修施設では研修医の労働時間の短縮に対応して、co-worker(NPなど)を雇うことで対応した。現在研修医の就業時間を56時間まで減らそうという提案がある。今回の研究はこれ以上の労働時間の短縮が費用に与える影響について調査することである。
方法
80時間制限後からco-workerを雇うことでその問題に対処した152施設に調査票をおくった。36施設、1021人のレジデントから回答があった。以前の公表されたデータが80時間制限の実施後と比較に使われた。一人のレジデントあたりに対する新規の職員の雇用数を算出した。そしてそこからこれ以上レジデントの勤務時間を減らした場合のコストの変化について調査を行った。
結果
80時間制限が行われた結果、レジデント一人当たりの勤務時間は週あたり5時間減少した。143人のco-workerがその穴埋めに働く事となり、一つのユニットあたり96,000ドルがかかった。56時間まで研修医の勤務時間を減らすとすると、一人の研修医あたり64,000ドルかかることが推定された。アメリカ全土で3200人の整形外科レジデントがいるので、1億4700万ドルから2億800万ドルの経費の増加が見込まれる。1時間動労時間を減らすことで800万ドルから1200万ドルの増加が考えられた。
結論
研修医の労働時間制限は、患者への有害事象をへらすことなく、高コストに終わる。政府はこのデータを参考として今後の研修医の就業時間についてのあり方を検討すべきだ。さもないとコスト的に教育が成り立たなくなる。

<論評>
アメリカでは医学教育はACGMEが一括して管理しています。2003年から研修医の労働時間は80時間以内にすべし!とお達しが出ておりました。(疲労によるミスを減らすことを目的としていたはずです)
今回のこの報告は金銭的な面から真っ向から喰いつくものです。
労働時間の制限で、事故が減る?有意差ないじゃん!と考察でも噛み付いています。しかも人が増えて手術経験できないし、みんなやる気がなくなってるんじゃないと考察しています。

研修医の労働時間短縮に、学会としても反対していますよ、という一つの意見広告かと感じました。

日本が古来より研修医を安くこき使っていたのは、この研究の結果を前もって知っていたからではないかなんて思ったりしました。笑

2011年4月6日水曜日

20110406 JBJS(Br) MRSA colonisation and subsequent risk of infection despite effective eradication in orthopaedic elective surgery

抄録
この研究の目的は整形外科待機手術の患者に対してMRSAのスクリーニングと治療を行ってそれを行うことがSSI(手術部位感染)の防止につながるかを検討することである。
5933例について調査。108例(1.8%)でMRSAの保菌を認めた。90例で手術が行われた。完全なる除菌療法が行われたにもかかわらず、6例(6.7%)で感染が成立した。4例で深部感染で、2例で表層感染であった。6例中4例でMRSA感染であった。下肢の関節置換術で感染のリスクが高くなった。
MRSA定着している患者ではその他の患者に比べて感染成立のリスクが高くなることがわかった。そのリスクは下肢の関節置換術で有意に高くなった。感染が成立したときにはMRSAであることが多かった。

方法
鼻腔、咽頭、鼠径部で培養をとった。抗生剤の外用を鼻腔に対しておこなった。それ以外には5日間毎日お風呂に入り、5日間のうち1回から2回はシャンプーするように指導した。手術2日前までは治療を終了した。陰性であることを確認した上で三ヶ月で手術を行った。

結果
5933例中108例でMRSAの定着を認めた。
THAではMRSA保菌 27例中4例で。MRSA陰性例では982例中11例で感染を認めた。
TKAではMRSA保菌 29例中2例で。MRSA陰性例1011例中4例で感染の成立を認めた。

考察
MRSA保菌患者では感染成立率が高かった。またサブグループ解析で下肢の関節置換術患者で感染が多かった。
関節手術の時には抗生剤の予防投与が推奨される。(MRSA保菌なしならセフェム系、保菌していればテイコプラニン)
テイコプラニンとバンコマイシンのどちらを使えばよいかは不明であった。


<論評>
なぜこの論文がJBJSに掲載されているかがまったく分かりません。5000例以上にわたって調査した苦労はお察しいたしますが。。。

統計学的に有意差あり。としていますがこの統計で有意であることはMRSA保菌と感染との因果関係を証明することはできません。MRSA保菌しているような人はそもそも全身状態がより悪い可能性があり、MRSAが交絡因子となっている可能性を否定出来ないからです。

rerative riskで有意差ありとしているようですが、今回はその疾患の発生率が低いために余計に意味をなしません。

たしかに感染は関節置換術で最も忌むべきものでありますが、今回の結果を以てしてMRSAのスクリーニングを行おうという結果にはならないかと。

MRSAのスクリーニングする前に、お風呂入って頭洗ったほうがいいのではというのが今回の結論です。