2012年3月27日火曜日

20120325 JBJS(Br) The early management of pts w/ multiple injuries その3

AO Trauma Pediatric Fracture Course, Riyadh, 2010 重症骨盤骨折

重症骨盤骨折は生命を脅かすような出血をきたす。この時重い腹腔内損傷を合併している場合がある。病院前もしくは院内での死亡の原因は、30%が出血によるもので、15%が出血と頭部外傷の合併であった。出血源としては23%が大動脈、23%が胸部、23%が骨盤骨折、10%が腹腔内出血、7%が四肢からの出血であった。外傷にかかわる整形外科医はとくに骨盤骨折からの出血をいかに減らすか、その出血による死亡をいかに減らすかが重要となる。 初期治療はバンドの装着である。骨盤バンドの目的は骨折部の安定とタンポナーデ効果による止血効果である。凝血塊を壊さずにおくようにしておくと疼痛の軽減にもつながる。単純レントゲン写真は真っ先にとる必要があり、これによって骨盤骨折と腹腔内出血,内臓の損傷との鑑別を付けることができる。

骨盤バンド(pelvic binderpevvic binderとは
骨盤バンドは骨性の骨盤輪をサポートする目的で用いられる。装着は非常に容易でイギリスでは病院外で装着したうえで搬送されてくる。このバンドを巻く位置は腸骨翼ではなく、大腿骨大転子部にまくことが肝であることを知っておく。こうすることでopen book型の骨折に対しても有効であるし、腹部への外科的アプローチも可能である。骨盤バンドにはいろいろなタイプのものがあるが、その効果はいずれも同じである。整形外科医であればどのタイプの骨盤バンドでも扱えるようにしておきたいものである。骨盤バンドが手元になければシーツラッピング、もしくは普通のベルトを用いる。しかしシーツラッピングは時間経過とともにその圧迫力が低下し、また普通のベルトは皮膚トラブルを起こすので両方とも注意が必要である。 病院への搬送前であっても、受傷機転から骨盤外傷が疑われ、ショック状態にあるような患者であれば骨盤バンドを装着することは合理的である。側方圧迫型の骨盤骨折では骨盤バンドの装着によって骨折部の転位が進行することは自明であるが、臨床的にこれによって有害事象が増えたとする報告はない。(そもそもバンドを付ける程度の侵襲よりも受傷そのものの侵襲のほうが大きいから

骨盤バンドの装着についての前向きの無作為割り付け試験は不可能である。しかしながら最近の観察研究によれば、骨盤バンドの装着によって有意に治療中の血圧が上がったとする報告がある。また骨盤の不安定性を60%減少させたとする報告もあり、その有効性はある程度認められる。

正面からの骨盤単純レントゲン写真は有用である。多発外傷の場合には胸部レントゲン写真と同時に撮像する必要がある。骨盤動揺性を調べる試験は無駄で、むしろ有害であるので行わない。それならば骨盤周辺に何かしらの傷がないかということを注意深く視診でおこなったほうがよい。

バインダーを付けた状態で撮像した場合には少し落ち着いてからバインダーを外して撮影を行う。

いわゆる”ログロール”はレントゲン写真が出来てくるまでは行わない。二次性の出血を助長する場合があり、この二次性の出血はコントロールすることが困難である。一般の鈍的外傷では緊急に処置を要するような骨盤後面のけがには乏しい。逆にテロで爆発に巻き込まれた場合には骨盤の後ろに大きなダメージを負っているのでチェックが必要である。ここは外科医としての常識を働かせて、必要であると考えたときにのみ緊急で廃部の確認を行う。

骨盤バンドの使用によって緊急に行う骨盤の創外固定の必要性は減少した。骨盤バンドが有効でないような病態では創外固定も有効でないことが多く、この場合には手術治療を含めて検討する。骨盤バンドの装着は最長24時間までとしておく。皮膚トラブルには注意が必要である。バンドの位置が常に正しいかは経時的にチェックを行う。脊髄損傷で麻痺を伴う場合には皮膚トラブルの発見が遅れることがあるので余計に注意が必要である。

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