2012年4月20日金曜日

20120420 Up to date: Septic artritis in adults

成人の化膿性関節炎についてのマトメ

有病率
台湾での研究によると都会の救急病院にはこばれてきた急性単関節痛を訴える8‐27%程度。

予測因子
6242人の関節痛を訴えた患者のうち、653人が化膿性関節炎であった。以下に危険因子を示す。
・80歳以上
・糖尿病が併存
・関節リウマチが併存
・最近関節手術を受けた
・皮膚の感染、皮膚潰瘍がある
・薬物乱用、アルコール乱用の既往がある
・関節内のステロイド注射の既往がある

これらのリスクが合わさった場合にはよりその危険性が高まることも知られている。

感染源
ほとんどの症例が血行性感染と考えられている。
幾つかの症例で心内膜炎の合併が報告されている。化膿性関節炎の起因菌が黄色ブドウ球菌、腸球菌、連鎖球菌であった場合には心内膜炎の検索を行なっておく。
この他に髄膜炎との合併があることも知られている。
化膿性関節炎は関節炎の既往が有るような関節に起こりやすいことが知られている。これは滑膜炎との関連が指摘されている。RAで化膿性関節炎の危険性が高まることが知られているが、痛風、偽痛風、変形性関節症、シャルコー関節でも危険性は増加する。ステロイドの投与、TNF製剤の投与の既往も危険因子である。

病理像
細菌は滑膜内の穴から関節内に侵入する。滑膜には基底膜がないためこのようなことが起こる。
感染が成立すると7日以内に線状細胞の過形成が起こる。加えて炎症細胞がサイトカインやプロテアーゼを放出する。軟骨の栄養が阻害されるため軟骨に障害が起こる。
細菌そのもの、または細菌の排出する毒素によって関節構造の破壊が進行する。

細菌学
さまざまな原因で化膿性関節炎が起こりうる。黄色ブドウ球菌(MRSAをふくむ)が最多の原因である。連鎖球菌のようなグラム陽性球菌も多い。外傷によるもの、薬物乱用、高齢者、免疫抑制状態にあるような患者ではしばしばグラム陰性桿菌が検出される。
肺炎球菌による化膿性関節炎もありえる。その様な患者の36% の患者では多発関節炎をきたしうる。
基本的に複数の菌が感染することは珍しい。

臨床症状
化膿性関節炎の患者では関節の腫脹と熱感が認められる。50%以上が膝に発生するが、足関節、手関節、股関節にもしばしば見られる。
恥骨結合への化膿性関節炎は稀であるものの、女性泌尿器の術後出会ったり、アスリートなどでは時折遭遇することがある。
20%が少関節、多関節の炎症を伴う。関節リウマチ、膠原病などを合併した患者では多関節に症状が出る。
関節痛、関節の腫脹、熱感、関節の可動域制限が主な症状である。これらの症状が85%で認められる。
化膿性関節炎の患者では発熱を大抵伴うが、悪寒を伴ったりspike feverを伴ったりすることは稀である。高齢者では熱が出ないことも多い。ときどき皮膚の感染症、肺炎、尿路感染などを合併していることもある。
薬物乱用者では胸鎖関節などに化膿性関節炎を起こす。

診断
血培ボトルに採取した関節液を入れると細菌の検出率が高くなる。ということで推奨されている。しかしながら余り変わらないとする報告もある。
もし穿刺によって関節液を採取できなければCTまたは超音波ガイド下にて穿刺を行うと良い。とくに股関節、仙腸関節などは考慮に値する。
非淋菌性の化膿性関節炎であれば培養が陽性にでる。もし培養が陰性である場合には最近抗生剤の治療を受けているか、連鎖球菌やマイコプラズマのようなものを考える。
グラム染色は有用であるが絶対ではない。その感度は29‐50%程度である。ムチンが染色されることによる偽陽性が時々見られる。
関節液内の白血球は50000‐150000程度である。化膿性関節炎の時には増加している傾向にある。関節液内の糖の減少も見られることがあるが、特異性に乏しい。
血液培養は50%の患者において陽性である。すなわち化膿性関節炎を疑う患者を見た場合には血液培養を採取しておく必要がある。
血液検査では白血球、CRP、血沈の上昇を認めるが非特異的である。
レントゲン写真上はほとんど正常である。CT、MRIは関節外への波及を評価するのに有効である。

鑑別診断
偽痛風、反応性関節炎、関節リウマチ、ウイルス性関節炎、ライム病などが鑑別となる。

結晶性関節炎
結晶性関節炎と化膿性関節炎の鑑別は極めて困難である。臨床上はほとんど同じ症状を呈する。レントゲン写真で石灰化を指摘できると診断の助けになる場合がある。
関節液内の結晶を診るまでは鑑別が出来ない

反応性関節炎
反応性関節炎の患者の多くで胃腸症状や泌尿器に関わる症状の訴えがある。強直性脊椎炎で化膿性股関節炎のような症状を呈することがある。

関節リウマチ
関節リウマチは一般に対照性の慢性の多関節炎を呈する。ときおり一関節の急性炎症を起こすことがある。この時点での診断は困難である。

ライム病
ライム病は急性の単関節炎をきたしうる。皮疹、熱、移動性関節痛を訴える。患者の旅行歴の聴取が重要である。

その他
真菌性関節症
淋菌性関節症
外傷性関節症
マイコプラズマ関節症

治療
抗生剤の経静脈投与と関節内洗浄が基本である。

抗生剤
抗生剤について決まったレジメはない。
関節内からグラム陽性球菌が検出された場合にはバンコマイシンの投与を検討
グラム陰性桿菌が検出された場合にはブロードなセフェム系の抗生剤を考慮する
(ceftazidime(モダシン®)、ceftriaxone(ロセフィン®)、cefotaxime(セフォタキシム®))
もし免疫不全患者で、最初のグラム染色が陰性だった場合にはバンコマイシンと第3世代セフェムを同時に投与することを考慮する。
感受性が分かり次第deescalationする。化膿性関節炎はバンコマイシンで治療させるべきであるが、副作用があって投与できない場合にはdaptomycin、linezolid、clindamycinの投与を検討する。

抗生剤の関節内投与は推奨されない。

抗生剤投与に決まった期間はない。一般に最低2週間点滴による投与を行ったあとに2週間の経口投与を追加する。
緑膿菌やエンテロバクターのような最近の時には4週間程度の点滴治療を継続することをおすすめしている。

関節内ドレナージ
ドレナージについてのRCTはない。
ドレナージをした方がよいのか、しなくてもよいのかということも不明である。
膝などの関節は毎日穿刺する方法でも対応可能であるが、毎回針をさすことが問題となる。
膝、肩関節は関節鏡による洗浄がしばしば行われる。この治療法での治癒率は78%であるとする報告がある。
股関節については手術治療が推奨される。
関節液が透明になってくるまでドレナージは留置する。改善がない場合には再手術を考慮する。

予後
化膿性関節炎の予後はこの数十年改善が見られていない。これは治療を行った後でも機能予後の予測が難しいからでもある。機能予後は宿主に依存する。






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