2012年5月30日水曜日

20120530 JBJS(Br) The outcome of carpal tunnel decompression in Pts w/ DM

糖尿病は手根管症候群の危険因子の一つとして認識されている。しかしながらその治療に対する反応も悪いのか?ということはわかっておらず、またその治療成績が糖尿病でない患者よりも劣るのではないかということも知られていない。本研究の目的は糖尿病を合併した手根管症候群の患者と糖尿病を合併していない患者との間でその治療成績について比較を行うことである。主たる判定基準にはQuick DASHを用いた。1,564人の手根管症候群の患者のうち176人が糖尿病であった。糖尿病を合併している群ではより症状が重症であった。術後1年でのDASHスコアの値は有意に劣っていたものの、臨床的に差が出る。と考えられる最小の違いでしかなかった。年齢、性別をマッチさせたコントロール群と比較して、その改善率には有意な差がなかった。糖尿病を合併した手根管症候群の患者でも手術による改善は望める。

【考察】
手根管症候群で糖尿病を合併している人は11.3%であった。この値は以前に報告されていたものよりも低い。ただ、本研究では神経障害がより重篤な患者が多かった。
QuickDASHでは図のように糖尿病群、非糖尿病群ともに手術によって同じような改善を認めた。また、QuickDASHで臨床的に意味のある改善度数は8点以上の違いがある場合とされており、本研究では非糖尿病群と糖尿病群で5.9点しか違いがなかったため、臨床的に大きく結果が変わるとは言えない。

糖尿病と手の病気の関連としては手根管症候群、デュプイトラン拘縮、ばね指などが指摘されている。大規模研究の結果糖尿病がある患者では糖尿病の内観じゃに比べその危険率は1.51倍と言われている。また両側例が多く、加齢、体重の増加によって発症しやすくなることがわかっている。

この研究は糖尿病を合併した手根管症候群の患者の経過がどうか、ということについて大規模に行った初めての研究である。

本研究の限界は選択バイアスがかかっている可能性が否定出来ないこと、客観的評価をおこなっていないことの2点である。

糖尿病を合併した手根管症候群の患者ではもともとその機能低下があるものの、手術後の改善は非糖尿病患者と変わらず、また臨床的な違いもない。

【論評】
このグラフはわかりやすいですねえ。結論で言いたいことが一目でわかります。
糖尿病患者では改善に乏しいのではないか。とおもっておりましたがイヤイヤそんなことはまったくありませんでしたね。
腰部脊柱管狭窄症なんかでも同様の研究をデザインして行うことが可能ではないかなとふと思ったりもしました。
優秀なcase controlスタディは前向き研究に勝るとも劣らないというよい報告ではないかと思いブログにアップしてみました。

もう一点気になったのが、”QUICKDASHで8点差ないと臨床的に有意な差ではない。”というところです。
僕が学会の発表を聞いていて苦になるのは、”その有意差は本当に患者さんのためになる差ですか?”という点が今まで余り言われて来なかったことです。
どうしても統計的な有意差ばかりに目を向けてしまい、本当に臨床的な違いかどうか分からないではないかと思っておりました。

ということでまた今度はこの8点差なんていう論文を読んでみたいとぞんじまする。

2012年5月21日月曜日

20120521 日本整形外科学会に参加してきました。



関節リウマチにおける薬物療法と合併症対策

DMARDsとしてMTX、ブシラミン、SASP、プログラフ。生物学的製剤が6種類。レミケード、エンブレル、オレンシア、アクテムラ、ヒュミラ、シンポニーが現在リウマチ治療で主に使われている。
免疫抑制剤を用いることによる感染症と、薬剤そのもののトラブルに注意が必要。
初診の時のスクリーニングがまず必要。一般採血に加えて尿検査、肝炎ウイルスの検査、ベータDグルカン、QFT、胸部レントゲン写真は準備しておく必要がある。
MTXでは肝障害、肺障害。それ以外にはMTX関連のリンパ腫など。
ベータDグルカンが陽性ならバクタの投与を行う。
感染症として重症化するものとして肺炎球菌肺炎。ワクチンを可能であれば摂取しておくとよい。
Denovo肝炎。劇症化した場合の死亡率は100%。投与前の検査でHBs、HBc,HBe抗体のいずれかが要請の場合には肝臓専門医への紹介を要する。

臨床医のための疫学と統計学の基本。
医学の一分野である疫学に統計が関わるのはごく一部である。
以下エビデンスレベルの低い順にその研究の概要について述べる。
1,      case series
記述疫学、比較群なし。仮説を見出すために行う研究。
2,      crosssectional study
横断研究。Reverse causality(要因と結果を逆に捉えてしまうこと)が起こりえるので注意を要する
3,      case control study
質の高いcase control studyRCTにも勝ると言われるほど。Caseのとりかたが重要。Controlstudy baseの原則に従って、sorse populationを代表するものでなければならない。たとえばある病院でのcase seriesであれば、その病院からcontrol群を選ぶ必要がある。
4,      cohort study
相対危険度(relative risk)を表すことができる。
5,      controlled trial

いわゆるp値だけよりも、相対危険度と95CIで表したほうが情報量が多い。95CIが表しているのが偶然誤差、有意差、精度。

医学の分野で実際に使える多変量解析はロジスティック回帰分析とCoxハザード比例分析。
ともに目的変数はある、なしの2値を取る。ロジスティック回帰分析から得られるのがオッズ比。ハザード比例分析から得られるのがハザード比。
ロジスティック回帰はほとんどの研究デザインで使用ができる。ハザード比例分析は時間経過が関わるようなもの(生存率)などで用いられる。

人工骨移植
強度、連通性、ミクロ気孔の3つがキーワード。強度の有無。硬いものでは皮質骨程度のものもあるか。普通は海綿骨より弱い。
βTCPは連通性なし。まさに漆喰。
骨伝導性を高めるための工夫。
今後は骨誘導能をいかに持たせるかがキモ。

股関節セッション
変形性股関節症に対するT2マッピングの発表が2例。以前と比べ特に新しい知見なし。難しい技術で、この先の治療につながらないことが問題なのかもしれない。
fluoride-PETも同様。まだ研究の域を出ない。此処から先どのように臨床応用するのか。この高価な検査を行った時に患者さんへのメリットがどのようなものがあるのかということを考えていく必要があると考えられた。
セラミックオンセラミック全人工股関節置換術。耐摩耗性に優れるとされているが、保証されているのは中期成績まで。今回malseatingの率が6%との発表。硬いものを設置するためにどうしても技術的な困難が伴うのか。今後長期でどう変わるか不明なだけに新たな症例に対して積極的に使うのはどうかと感じられた。
脱臼危険因子について多くの症例をなさっている施設、先生から多変量解析を用いた発表。術前の可動域がよい症例、男性、高齢、カップ/骨頭比、脱臼の既往などが挙げられていた。28mm以上の大径骨頭では脱臼は明らかに減少していることが示されていた。個人的には大径骨頭にすることでトルクが大きくなり臼蓋側のゆるみが早く進むのでは無いかと危惧しているところはあるのであるものの、脱臼が人工関節で最も大きな合併症であることは間違いないので、長い年月をかけて検証されていく必要があるものと思われた。
透析患者の人工関節、人工骨頭は非常に成績不良。生命予後は5年。その短い期間でも再置換は20%にのぼる。透析患者さんへの人工関節についてはしっかりとしたお話が必要であろう。

股関節診療ガイドライン
発表されて4年となる。ガイドラインを作られるご苦労は大変なものであることを認識。変形性股関節症の診断基準が無い。というところから先ずは衝撃的であった。笑。本邦での発表は全体にcase seriesに偏っているためエビデンスレベルが低く、採用されにくいと言うことも伺った。今後は質の高いcase control studyを念頭において研究デザインを考えたい。

FAIfemoroacetabular impingement)のセッション
今まで診断についてあまり進んでいなかった股関節分野で新しい知見として注目されているFAI。臼蓋形成不全、関節唇損傷、との兼ね合いもあり難しい。関節唇損傷はMRIでもやはりはっきりしない。高解像度造影CTでなんとか見えるか。FAIについてはシュミレーションソフトを用いた診断も考えられているとのこと。今までゴールドスタンダードと考えられていたcross over signでも骨盤が後傾の結果に過ぎず、本当のFAIは44%にしか見られないとのこと。特異的な理学所見をとって、バランスボールなどの股関節周辺、体幹筋力訓練。ストレッチによる筋緊張の減少をプライマリーレベルであれば試みるべきか。
リハビリメニューなどについて専門施設に相談して、自分なりのハンドアウトを作成しておきたい。
股関節鏡が関節唇、FAIの切り札。何かしらのトレーニングを積む必要があるのかもしれない。
人工股関節置換術は後方アプローチの工夫についてのものが多かった。外旋筋を切離せずにおこなうERP法。外閉鎖筋の再建が重要でこれを再建することで屈曲時の安定性が増すようである。届かなくてもブリッジングで対応。
長谷川先生の可動域評価は実際的な方法ということで評価を受けていた。

足・足関節の日常診療の要点
診断をつけるためにはまず触診を行う。解剖学的知識に基づいて1つずつ触診することで病態に近づく。足関節の腫脹などでもその評価のためには触診時に動かしてあげるとより良く分かる。
外反母趾は第一中足骨が長いと起こり得る。特に若い子の場合にはそれが顕著。母趾外転筋は荷重時に働いて広がる。それが働かなくなるので外反母趾が進行する。
正しい靴の処方。かかとがしっかりしている。中足骨部をしっかり保持でき、あしがすべらない。つま先に余裕がある。柔らかい靴。
年寄りのSF36を取ると同年代の人達よりも外反母趾を主訴に来る人が圧倒的に元気。運動療法を処方。タオルギャザリング、Hohhman体操。ストレッチング。つま先歩き。
足底の痛みの原因としてベンチは重要。そこに荷重が集中しているという1つの証拠。中足骨頭によって押されている。
若年者の偏平足。靴を持ってこさせて判断。内側ばかりが削れているということが多い。腓骨筋痙性麻痺の見逃しに注意。うち返しができない。
高齢者の偏平足の原因としては後脛骨筋不全。 Toe many sign。片脚での爪先立ちが出来ない。できても踵骨が外反したままの状態となってしまう。アーチの再建が重要。

医学教育のポスターセッション
手術のラーニングカーブをQCの分野の手法で評価した発表があった。今後の検討課題としたい。クリニカルパスに導入されるような疾患であれば使えるはず。しかも人によらず、その対象によることが多いとのこと。ますます興味深い。

Facebookを通じて知り合った同年代の若手と話ができたり、ということで新しいことに取り組むことができたJOAであったと感じています。来年はまた面白いネタを考えて投稿していけたらよいなと感じています。
個人的に夜中に目を覚ますほどの咽頭痛に4日間悩まされながらの参加でした。
まずは体調管理から。ということで。

2012年5月10日木曜日

20120510 JBJS(Am) The effect of NSAIDs administration on acute fracture-healing: A review

背景
 NSAIDsは鎮痛薬として術後の疼痛管理にも頻回に用いられている。しかしながらプロスタグランディンを抑制する働きが有るために骨折の治癒を阻害するのではないかと言うことが危惧されている。

 方法 ”NSAIDs”と”骨折治癒”でシステマティックレビューを行った。

 結果 315編の論文が該当した。大部分の論文が小規模の研究でまた観察研究、もしくは後ろ向き研究であった。

 結論 動物実験レベルではCOX-2が早期の骨癒合を阻害するということが知られている。しかしながらこのことを実証するようなヒトを対象としたエビデンスは殆ど無い。今回のシステマティックレビューで 短期間のNSAIDsの使用が骨折治癒に与える影響について強固なエビデンスはない。ということであった。骨折治癒を阻害しないように適切な鎮痛剤の使用を行う必要があるものと考えられた。

 【論評】 JBJSの契約の切り替えが上手く行かず、内容が読めないでございます。。。

 うさぎだかラットの研究でCOX-2で骨折治癒が遅延すると言う話は聞いたことがあり、話半分に聞いていましたが、systematic reviewと言う方法をもちいて熱心に調べられる方も世界にはいらっしゃるのだなあと感心しきりです。

このかたが指摘していらっしゃるように、前向きの研究をデザインする必要がありそうですね。 なのでおもむろにデザインしてみましょう。 

脛骨骨折は遷延癒合、偽関節になることが多い。ということが知られていますので、脛骨骨幹部骨折を例にとってみたいと思います。

 そこでこんなPECOをつくってみました。 前向き、RCT。出来れば評価者は術者以外とするシングルブラインド研究。(患者さんは何を飲んでいるか知っていても良いと思います。)

 P:脛骨骨幹部骨折の患者(病的骨折は除く。開放骨折も含みますかね。)
 I:NSAIDsによって鎮痛を図る。(ソレこそセレコ◯クスの大量投与)
 C:アセトアミノフェン、ペンタジンなどで疼痛コントロールした群
 O:プライマリーアウトカムとして偽関節の発生の有無  
セカンダリーアウトカムとして1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月でのX線上の仮骨形成の状態  VASスケール。  SF36などのQOLスコア  復帰状態 

http://www.davidlnelson.md/COX2Inhibitors_&_Fracture_Healing.htm 先行研究によって、

NSAIDsによって鎮痛した群と、別の鎮痛剤を用いた群とでは偽関節となったのが17%と4%であったとの報告があります。 そこで、αエラーを0.05、検出力を0.8と設定して、片側検定を行うとすると、、、、、、、

その必要症例数は 85例となりますね。(Rにより計算) 脱落を考えて各群100例は欲しいところですね。。。。

 これは多施設研究するしかないっしょ!!! ということでこの話をきいて多施設研究をしてみたいとおもった方をゆるーーーく募集いたします。笑

施設数がたくさん集まって、やれそうだなあと思ったらUMINに申請してみます。

 初めて計画を立ててみましたので、穴があるかと思いますのでご指摘ください。 連絡先は

gamitake1919あっとまーくyahoo.co.jpでございます。 よろしくお願いしまーす。

20120510 JBJS(Am) Effectiveness of ACL injury prevention training prgrams

抄録 ACL損傷を予防するための指導がどの程度有用かということについてのシステマティックレビューを本研究では行った。臨床上の問題は以下の3点である。 1,本当にACL損傷を予防するための運動プログラムは有用なのであろうか? 2,”最善のプログラム”は存在するのであろうか 3,ACL損傷予防についての論文の質について 

方法 Pubmed、MEDLINE、EMBASEなどから文献を検索。検索語彙はanterior cruciate ligament, knee, injury,とした。 研究のデサイン、臨床成績については3重のチェックを加えた。異質性についての検討も加えた。危険率の違いにはnumber needed to treat(治療の効果がでるのに治療しなければいけない人数。NNT)を用いた。 

結果 危険率は0.38となり、予防プログラムを行った分の方が有意にACL損傷が少なかった。NNTは187であった。性別についてリスク比を検討してみると女性の場合には0.48、男性の場合には0.15と女性の運動選手でプログラムの効果が大きくでた。

 結論 ACLの運動予防プログラムには効果があるとする強いエビデンスが得られた。特に女性運動選手ではその危険性を52%までに減らすことができそうだ。

 <論評> FIFAを始めさまざまなところから若年者のスポーツ障害予防プログラムが出ております。 そのスポーツ障害予防プログラムが有用であるとする良い論文ですな。。 なぜかJBJSにログインできなくなっておりますので、詳細はご自身でご確認をおねがいいたします。

2012年5月2日水曜日

20120502 椎間板の画像分類 bulging,protrusion,herniationの使い分け

今朝の画像カンファレンスでMRIで椎間板のbulging、protrusion、herniationの使い分けってどうするの?みたいな話になったので、以前調べたものをupします。

American Journal of neuroradiographyによる分類です。

bulging: 横断面で円周の50%以上にわたって、脊椎周囲から3mm以下の椎間板の突出が認められる場合
herniation: 椎間板の内容物が正常椎間板の外部に突出した状態。
protrusion: 突出したヘルニアの最大距離が基部のエッジを超えないもの

なんかわかったような、わからないような。笑

臨床的にどう使い分けるかというのはまた別の話になりそうですね。

http://www.asnr.org/spine_nomenclature/glossary.shtml