2016年6月20日月曜日

20160620 JBJS(Am) Tranexamic Acid Administration in Primary Total Hip Arthroplasty A Randomized Controlled Trial of Intravenous Combined with Topical Versus Single-Dose Intravenous Administration



トラネキサム酸(商品名:トランサミン)の局所投与がTHAの出血コントロールに有効ですよ。というお話。
中国からの報告。
素晴らしい論文だと思います。まず研究プロトコールが完成している。3群比較が絶妙ですよね。この論旨であれば、局所投与が有効であるといえます。
筆者らも『この研究の強みは研究プロトコールが完成していることである』とDiscussionの中で述べています。

全く同時期にJournal of ArthroplastyにアメリカからTXA局所投与と全身投与を比較したRCTが、Journal of Orthopaedic scienceに佐賀大学からのTXAについての局所投与と全身投与の後ろ向き研究が報告されています。
ご興味がある方は以下からどうぞ

Journal of Arthroplasty http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26783121
JOS http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26755385


この論文がそれらの報告を抑えてJBJS(Am)に掲載されたのもうなずけます。
佐賀の報告なんて886例!もの検討を行っています。そのご苦労を察するに、だれか研究プロトコール作れなかったのかと。どこかで前向き、RCTに出来なかったのかと。惜しまれます。

最後に、この1年、Core Journalにおける中国からの臨床研究の報告が目立つようになってきました。国としての勢いを感じます。またプロトコールを作る専門家がいるのでしょうかね。このプロトコールの巧みさには舌を巻くばかりです。日本も医者だけに任せずに、そういった研究アシストがあればいいのに。と思いました。


以下本文
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  • トラネキサム酸(TXA)は人工股関節置換術(THA)でしばしば使われる。しかしながら深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓などの副作用については検討されていなかった。また、どうやって投与されるべきかということについても検討されて来なかった。本研究はTXAの静脈内投与と局所の同時投与がTHAの出血量を減らすことができるかを検討した。
  • 方法
  • 前向き、無作為割り付け試験。150人の患者を3群に分けた。同時投与群(15mgのTXA静脈内投与と1g/100mlの局所投与)、静脈内投与群(15mgのTXA静脈内投与)、プラセボ群に分けた。プライマリーアウトカムは出血量。輸血量。セカンダリーアウトカムは入院期間、関節可動域、ハリスヒップスコア、DVT、肺塞栓の発生率とした。
  • 結果
  • 全出血量は同時投与群で835.49±343.5ml、静脈内投与群で1002.62±366.85ml、プラセボ群が1221.11±386.25mlで有意に同時投与群で減少した。同時投与群では輸血量も減少した。(1単位対8単位対19単位)。肺塞栓の発生、DVTの発生には有意差を認めなかった。
  • 結論
  • 静脈内投与と局所投与のTXAの同時投与はTHA患者での出血量を減らす。また輸血量も減少させる。どのように投与すべきかというプロトコールの作成は必要である。
  • Introduction
  • TXAは線溶系の阻害剤として知られており、様々な外科的手術の際に使用される。THAにおけるTXAの投与は周術期の出血量を減らすという報告がある。これらの報告はTXAの静脈内投与である。TXAの投与方法についてはいまだ議論の余地がある。
  • 静脈内投与されたTXAのほんの数%が局所に到達して同部の線溶系を抑制し、血栓を安定化させることは一般的なコンセンサスが得られている。TXAの投与では手術時の出血のみならずHiddenBloodLossも減少することが知られている。TXAの投与における安全域、すなわち静脈血栓、肺塞栓を起こさないような濃度については近年関心が高まっている。またTXAの適切な投与方法についても検討が必要である。
  • TXAの関節内直接投与(局所投与)についても近年報告が見られるようになってきた。局所投与は静脈内投与に比較して投与が容易である。またその効果も静脈内投与と同等であったとする報告もある。局所投与は静脈内投与よりも全身への影響が少なく、関節の腫脹、創部の治癒、リハビリにも好影響を与えたとする報告もある。
  • 本研究の目的は無作為割付試験にてTHAにおけるTXAの同時投与と、静脈内単独投与の効果について比較検討することである
  • 方法
  • 後方アプローチ。2人の術者。
  • 同時投与群は皮切5分前に15mgのTXAを静脈内に投与。臼蓋を掘削した時点でTXA200mg/20mlの生食を投与。続いて大腿骨を掘削した時点でTXA200mg/20mlの生食を投与。最後に筋膜を縫合する前にTXA600mg/60mlの生食を関節内に投与。
  • 静脈内投与群は皮切5分前に15mgTXAを静脈内に投与。同時投与群と同じタイミングで同量の生食を局所に投与した。
  • プラセボ群は同量の生食を同じタイミングで静脈内投与。同時投与群と同じタイミングで同量の生食を局所に投与した。
  • 術後2時間ドレーンをクランプ。その後開放。術後の評価はブラインドされた第三者によって行なわれた。
  • 輸血は中国の健康省のプロトコールにしたがって行なわれた。このプロトコールではHbは7.0g/dl以下、何かしらの全身症状または精神症状をきたしている場合に輸血が行なわれた。
  • 静脈血栓の予防としてはフットポンプと低分子ヘパリンの投与が術後8時間から24時間まで行なわれた。退院後は15日間のリクシアナの投与が行われた。
  • DVTのスクリーニングは術後3日目に全患者において超音波での検査が行われた。術後6ヶ月の時点で深部静脈血栓症が疑われる患者では超音波、CT、静脈造影が行なわれた。
  • プライマリーアウトカムの測定は、全出血量、屁もぐろぐん、ヘマトクリット、血小板濃度の変化。術後3日目にドレーンの量、出血量、周術期の輸液量、総輸血量を調査した。総出血量はGrossの測定法を用いた。
  • セカンダリーアウトカムとしてはDVT、肺塞栓の有無。ハリスヒップスコアを測定した。
  • 結果
  • 182名の患者をリクルート。32名の患者が除外された。
  • 出血量
  • 同時投与群が最もHbの低下、Htの低下が少なかった。3500ml以上の輸液が行なわれていた。
  • 輸血量
  • 同時投与群が最も輸血量が少なかった。
  • セカンダリーアウトカム
  • 入院期間は3群で全く差がなかった。術後のHHSも3群で差がなかった。
  • 術後合併症は5例でDVTを発症、2例で術中骨折を発症、1例で感染を認めた。DVTは2例で同時投与群、2例で静脈投与群、1例でプラセボ群で認めた。肺塞栓はどの群でも認めなかった。
  • 考察
  • TXAの使用が有益であることは多数の論文で報告されている。多くの論文で輸血量が減少したと報告されている。TXAの使用が有益であることがわかっていたが、本研究ではDVT、肺塞栓のリスクについても検討を行い、また局所のTXAの投与の有効性についても検討を行った。近年TXAの局所投与が全身投与と同程度の効果があるとの報告が散見される。その作用機序としては線溶系の直接的な阻害が考えられている。局所投与は全身投与に比べて投与が容易であり、TXAの濃度を高く保つことが出来、また関節の腫脹を減少させることができるという報告がある。TXAの関節内での半減期は2−3時間と言われている。局所のTXAの投与についてその効果ははっきりとしなかった。
  • TXAの全身投与では深部静脈血栓症、肺塞栓を含めた副作用が生じることが懸念されている。
  • これらの報告を踏まえて、本研究では統計学的にもしっかりと計画をされたTXAの無作為割り付け試験を計画した。
  • その結果として局所に1gのTXAを投与し、15mg/Kgの静脈内投与を併用することで出血量、輸血量を減少させることを示した。
  • 本研究で臼蓋側、大腿骨側、皮下への局所投与を併用する方法は有効であることを示した。
  • 皮切5分前でのTXAの全身投与は生物学的半減期から考えても有効な方法であるとかんがえられる。
  • 表5にTHAに関してのTXAの文献を示す。本研究の様な同時投与は今まで報告がなかった。
  • 本研究にはいくつかのLimitationがある。まずフォローが短期間であるということである。ただ、TXAの半減期が短いことを考えればこの短期間のフォローで充分であったものと考える。また便部静脈血栓症の検査でエコーのみで行っているが、この方法では症状のない深部静脈血栓症を見逃している可能性がある。また術後PT、PTINRの測定を行っていない。ひょっとしたら術後のPT、PTINRの変化が出血量に影響を及ぼしたかもしれない。最後に本研究のサンプルサイズが小さいため、DVT、肺塞栓の検出には充分でなかった可能性がある。
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